地中からかすかに響く、過去からの〈挫折した希望〉の歌

紛争が終わり、国の解体と同時に、新たな国境線がつくられた故国に帰ってきた父と母。前へ前へと「進歩」していく流れのなか、その背後では瓦礫が山のように築かれていく。
ただ頑なに死んだ息子を待ち続け、涙を流せずにいる母親と、息子の遺体を探すため、日夜、穴を掘り続ける父親。そして息子が語るのは、この土地に重なり合いながら、敵も味方も年代も国籍もなく、共に歌い笑う死者たちの姿だった―。

『なぜ ヘカベ』(作:マテイ・ヴィスニユック)の上演で新たな評価を得た江原早哉香が演出を担い、同作を協働したスタッフとともに2016年初演。パペット・マスクを用い、家族を取り囲むふたつの世界……圧倒的な合理化で人々を均一化していく〈進歩の世界〉と、豊かに積み重なる〈死者の世界〉を描きだす。
異質性と多様性を排除し、終わることのない人間同士の争いと悲しみの連鎖。瓦礫のなかで過去からの呼び声に耳を傾け、遂げられなかった希望を救い上げていく家族の姿に、人間が共に生きていく可能性を見つめる、マテイ・ヴィスニユック作の最新作。

作:マテイ・ヴィスニユック
翻訳:川口覚子
構成・演出:江原早哉香
舞台美術・衣裳:
アンドラ・バドゥレスコ
作曲・音楽制作:
バンジャマン・クルシエ
演出助手・人形制作:
エリック・ドゥニオー
演出助手:オーレリアン・ズキ
音響:渡辺雄亮 
照明:坂野貢也 
舞台監督:佐田剛久

【出演】
緒方一則 柴崎美納
佐野準 白根有子
柳瀬太一/佐藤勇太
稲葉礼恵/仲村三千代
保角淳子/辻由美子