人と人との“波動”が求めあう出会い

 幼少期の病がもとで視覚、聴覚、言語に障害を持つヘレン・ケラー、そして彼女に「言葉」を発見させ、彼女の新しい世界を切り開いた家庭教師アニー・サリバン。孤絶した暗闇の世界から解放されたヘレンは、アニーとの二人三脚によって大学へと進み、必死の猛勉強で博士号を受け、一生を通じて同じような苦しみを抱えた人々、弱者の支援に手を差し伸べ続けます。このヘレン・ケラーとアニー・サリバンの物語は「奇跡」の物語として、世界中の人々に親しまれ、数多く上演も試みられています。

 私たちはこのヘレン・ケラーの物語のサブタイトルを「ひびき合うものたち」として、1995年、松兼功の脚本で初演し、以後全国各地での上演を繰り返してきました。

 作者 松兼功はこの物語を「飽くなき人間への好奇心と、愛情の交換の物語」として描いています。それは2人の出会いが現実離れした「特別な奇跡」として片付けられるのではなく、「人と人との繋がりの可能性」の物語として描かれることを願ったからです。作者自身も脳性麻痺という重度の障害を抱えています。
“大切なのはヘレンによって理解されたアニーがいて、アニーによって理解されたヘレンがいること”ヘレンとアニーが出会い、お互いに求めあい、苦悩して手に入れたもの。それは「言葉」だけではなく、お互いがお互いを信じあきらめない心が触れ合った瞬間です。

 人と人との出会いには必ず障害がある。現代はまさに、誰もがその難しさを抱える時代です。それでもなお人は繋がり、ひびき合い、自分らしさを獲得していきます。
東京演劇集団風の『ヘレン・ケラー~ひびき合うものたち』は、かけがえのない出会いを信じるための物語です。

作:松兼功
演出:浅野佳成
音楽:小室等
舞台美術:上田淳子