警察から逃亡して北方の金鉱地帯に向かう怪しい一団、やもめのベグビック、「社長」のヴィリー、三位一体のモーゼ。彼らは逃亡の道のりで「自分たちで金鉱を掘るよりも、金鉱夫から金を取る事業を起した方が得策だ」と発見する。ベグビックの手引きによって建設された都市“マハゴニー”は全世界の欲求不満の人たちを磁石のように引きつけ、欲望を吸い取る街はまたたく間に大きくなっていく。
 アラスカでの労働に耐えたパウル・アッカーマンら4人の木樵たちは、札束をがっぽり持ってマハゴニーに到着するが、彼らは幸福にはなれない。マハゴニーには依然としてあまりに多くの規制や統制があったからだ。ハリケーンが近づき、歓楽の都市“マハゴニー”の壊滅がほぼ確実だという瞬間に、パウルはひとつのインスピレーションを得る。
 それは一切の制限の廃止。
 人間の幸福の実態とは、「何でも好きなことを、やりたい放題にやってもいいこと」だ。

 資本主義社会の戯画化といわれる本作がドイツで初演されたのは、1930年。「世界大恐慌」によって世界の国々が混乱しているときに、オペラとしてクルト・ヴァイルの作曲により上演されました。ブレヒトはこのオペラ『マハゴニー市の興亡』の上演から、単に感動の渦に巻き込む娯楽性のみにかたよった演劇に疑問を投げかけ、観客自身をも観察者とする演劇-「叙事的演劇」の模索を開始したと言われています。

 東京演劇集団風は2006年に、『肝っ玉おっ母とその子どもたち』『星の王子さま』など、風の数々のオリジナル音楽を手がける八幡茂の作曲により初演。ブレヒトの作品をとおして現代社会の問題や、演劇の可能性を探求し続ける風の新たなレパートリーとして「マハゴニー市の興亡」の上演を繰り返しています。「金」によって幸福を得る社会、その実態に目をむけ、鮮烈に、爽快に社会を暴き出します。

作:ベルトルト・ブレヒト
訳:岩淵達治
構成・演出:浅野佳成
音楽:八幡茂
舞台美術:
アンジェイ・ピョントコフスキ
照明:塚本悟
音響:実吉栄一
演出協力:中川晶一朗